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堺の農業を考えるともっと楽しい

特集 『堺の農の未来』を考える
Part.1

堺4Hクラブ

大阪府内でも農業が盛んに営まれているとはいえ、堺市の農業を俯瞰すると、全農家数2,566戸の内、販売農家数は794戸であり(平成27(2015)年農林業センサス)、販売農家の経営耕地面積は田約370ヘクタール、畑約80ヘクタール、樹園地約34ヘクタールとなっています。農家1戸あたりの経営耕地面積は30アール余りの零細規模で、自家消費米の米単作農家が多い状況です。
農業就業者数1,471人のうち、40代以下は307人、60歳以上は994人で全体の67.5%を占め、農業従事者の高齢化は顕著です(同上)。相まって農業後継者不足や都市化の進展に伴う農地の減少、相続に伴う農地所有者の分散化・小規模化など営農環境は厳しいといえます。
農家は基本的に自営業者であり、なかなか他の農家と交流する機会が少ないため、ややもすると孤立化を招きやすい。そのサポートのために農業協同組合があるのですが、更に農業技術を向上させ経営上の問題を解決していくためには、より身近に切磋琢磨できる仲間の存在が非常に大切になってきます。そこで若手農業者の集まりである「堺4Hクラブ」を紹介します。

4Hクラブとは

将来の日本の農業を支える20~30代の若い農業者が中心となって組織され、農業経営をしていくうえでの身近な課題の解決方法を検討したり、より良い技術を検討するためのプロジェクト活動を中心に、消費者や他クラブとの交流、地域ボランティア活動を行っているのが、4Hクラブ(農業青年クラブ)です。
同クラブは、現在、日本全国に約850クラブ、約1万3千人のクラブ員が、“日本や世界で貢献できる農業者”となることを目指し活動しています。

4Hクラブロゴ

4つのHは、同クラブの4つの信条の頭文字を総称したもの。

  • Head(頭脳) … 科学的に物ごとをとらえることのできる頭の訓練をし
  • Hand(技術) … 農業の改良と生活の改善に役立つ腕を磨き
  • Heart(心)  … 誠実で友情にとむ心を培い
  • Health(健康) … 楽しく暮らし、元気で働くための健康を増進する

の頭文字をとったもので、実践を通じて自らを磨くとともに、互いに力を合わせて、よりよい農村、よりよい日本を創ることを目的に活動しています。

堺4Hクラブの取り組み

毎年11月23日に開催される堺市農業祭で『堺の玉葱すーぷ』や地場産米を使用したポン菓子の販売をしている、といえば「あぁ、あの人たちか!」と思い出す市民も多いかも知れません。
クラブの会長は田中篤さん、メンバーは現在16人で20~30代後半の青年農業者です。
地場産タマネギを加工した『堺の玉葱すーぷ』開発による6次産業化(コラム参照)への取組みが評価され、平成30年JA大阪府大会で組合員組織表彰「優秀賞」を受賞し、堺市農業を牽引する生産者としての実力が認められました。
堺4Hクラブの日頃の地道な取り組みを伺うと、頷ける話でしょう。
月1回の定例会を開き、大阪府泉州農と緑の総合事務所から農の普及課職員を講師に招いて、農業技術や最新の農業情勢等の勉強会を実施しています。また年に1回、新たな栽培技術の習得を図るため視察研修会を実施する等、意欲的にレベルアップに努めています。これらの取り組みを大阪府青年農業者会議においてプロジェクト発表したり、農業祭では農産物品評会にて生産物を出展し、その成果を市民の皆さんに見ていただくなど、常に生産技術の向上を図っています。
さらに帝塚山学院大学食物栄養学科と連携し、地場産農産物を使用したレシピを考案したり、産学連携の取り組みにも余念がありません。
一方において対外的には、堺市地産地消推進協議会・堺市学校給食協会と連携し、市内小学校にタマネギの栽培(定植・収穫)の授業を実施し、食育活動にも熱心です。教育現場からは、子どもたちが農業に関わる機会が少なく、農業者の方から直接教わりながら学べる農業体験学習は大変貴重であるとの声をいただいています。市内の小・中学校の給食には、タマネギ・ダイコン・キャベツ・ニンジン等を出荷しています。
年に1回は、市内の児童福祉施設へ訪問し、ポン菓子をくばったり交流活動も欠かしません。農業祭にとどまらず各種イベントにも積極的に参加し、堺4Hクラブの活動をPRするとともに、農産物の販売を通じて消費者の声に耳を傾け、自らの農業経営に反映させようと熱心に活動しています。
(※昨年は新型コロナ感染症の対策で、クラブとしての活動を一部停止しています。)

小学校における食育活動(タマネギの栽培指導、苗の植え付け指導)
小学校における食育活動(タマネギの栽培指導、苗の植え付け指導)
小学校における食育活動(タマネギの栽培指導、収穫指導)
小学校における食育活動(タマネギの栽培指導、収穫指導)

【コラム】《6次産業》とは

農林漁業者(1次産業)が、農産物などの生産物の元々持っている価値をさらに高め、それにより、農林漁業者の所得(収入)を向上していくことです。
生産物の価値を上げるため、農林漁業者が、農畜産物・水産物の生産だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組み、それによって農林水産業を活性化させ、農山漁村の経済を豊かにしていこうとするものです。
「6次産業」という言葉の6は、農林漁業本来の1次産業だけでなく、2次産業(工業・製造業)・3次産業(販売業・サービス業)を取り込むことから、1次産業の1×2次産業の2×3次産業の3のかけ算の6を意味しています。
言葉の由来は、東京大学名誉教授の今村 奈良臣(いまむら ならおみ)先生が提唱した造語と言われています。
※ 農林水産省ホームページより https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1202/a04.html

堺の未来の農業は、きっと、もっと、楽しくなる

堺農業が抱える課題の一つに、都市部においては農地が点在し(小規模農地が多い)作業効率が悪いこともあげられます。かつ分散化傾向にあり集約化が難しいため、新規参入に当たってまとまりのある農地が少ないのが悩みでもあります。できるだけ近場の農地を確保し、経営規模の拡大を目指す農業者には農用地の利用集積を進めるなど、堺農業を支える担い手の育成・支援に堺市は積極的です。
また市内流通と消費の拡大にむけて様々なチャンネルを用いてPR活動を展開しているものの、堺のブランド農産物『堺のめぐみ』や『泉州さかい育ち』の認知度は十分といえず、販路の確保には苦労しているようです。更に農産物の価格が大規模産地(軟弱野菜では福岡県など)の価格に左右されることから、『大阪エコ農産物』をはじめとする付加価値農産物の生産増大による産地としての知名度向上に注力しています。

イベントへの参加による「堺のめぐみ」など堺産農産物の周知活動(堺市役所前市民交流広場における販売)
イベントへの参加による「堺のめぐみ」など堺産農産物の周知活動
(堺市役所前市民交流広場における販売)

【コラム】《大阪エコ農産物》とは

大阪府内の従来の栽培に比べ、農薬や化学肥料の使用を通常の半分以下に抑えて栽培された大阪府が認証する農産物。より安心で私たちの環境にも配慮した農産物をみなさんにお届けするために、府内の農家さんが手間暇かけて栽培しています。大阪エコ農産物には認証マークが貼付されており、そのエコ農産物を栽培した栽培責任者の名前と連絡先も表示しています。(大阪府ホームページより)

次代の担い手へ

堺市農業は成長産業である、と断言しましょう。大都市大阪に隣接し消費地が近い『都市農業』であることこそが最大の魅力です。都市の多彩なニーズに合わせて栽培される作物の種類も豊富で、これらの農産物の生産・出荷・販売までを一貫して完結することができます。味にうるさく、安全・安心、新鮮さ、クオリティが求められるからこそ、生産技術等の向上やイノベーションが欠かせません。都市農業は進化をし続けます。
何よりも、食を支える大切な第1次産業にかかわることができる、ということに誇りをもって欲しいと思います。「生きることは食べること」なのですから。

■ 参考サイト ■

全国農業青年クラブ連絡協議会 https://zenkyo4h.com/

やるやん!大阪農業 ~都市農業、挑戦の記録。~ https://omoroiyan-ja.osaka/yaruyan/

■ 取材協力 ■

堺市農業協同組合